愛という名の牢獄からの脱出:ストーカー問題の深淵と希望

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愛という名の牢獄からの脱出:ストーカー問題の深淵と希望

「愛してるのに、どうして分かってくれないんだ!」

愛と執着の境界線は、時に残酷なまでに曖昧になる。愛するあまり、相手を自分の支配下に置こうとするストーカー行為。その深淵には、加害者自身の歪んだ認知や苦悩が存在する。

今回は、元ストーカー加害者である守谷秀勝氏と、数多くのストーカー被害者の相談を受けてきた弁護士の三輪房子氏を迎え、ストーカー問題の闇に迫る。

禁止命令は万能薬ではない:エスカレートする危険性

福岡県で発生した痛ましい事件。元交際相手の男に刺され、一時意識不明の重体となった21歳の女性。警察には、事件前から複数回にわたり相談があり、事件当日にはストーカー規制法に基づく禁止命令が出されていたという。

「禁止命令が出ても、それで解決するとは限らないんです」

三輪弁護士は、禁止命令の限界を指摘する。禁止命令が出た後、逆上してストーカー行為がエスカレートするケースも少なくないという。

「禁止命令は、あくまでも行政処分。加害者によっては、『法律なんか関係ない』と、さらに凶悪な行為に走る危険性もあるんです」

元加害者である守谷氏も、自身の経験からその危険性を訴える。

「禁止命令が出たことで、逆に警察に逆恨みし、エスカレートするケースもある。私の相談者の中にも、禁止命令を受けた後も、『なんで警察に言ったんだ!』と逆上し、ストーカー行為をエスカレートさせた人がいます」

被害者の恐怖:終わらない悪夢

ストーカー被害者の恐怖は、想像を絶するものだ。自宅や職場での待ち伏せ、執拗な電話やメール、SNSでの誹謗中傷…。

「家の近くに車が止まっていた」「職場の下で待っている」

タレントの木村さんは、自身のストーカー被害経験を赤裸々に語った。恐怖から、警察に相談し、相手には書面警告と禁止命令が出されたという。

「相手は、私のことを本当に好きで、悪いことをしているという認識はなかったんだと思います。だから、警察に言われたことで、『これはまずいことなんだ』と気づき、ストーカー行為をやめてくれました」

木村さんのケースは、比較的幸運な例と言えるだろう。しかし、多くの被害者は、いつ終わるとも知れない恐怖に怯えながら、日々を過ごしている。

加害者の心理:歪んだ愛と認知

なぜ、ストーカー行為を繰り返してしまうのか?

「私の場合は、結婚して家庭もありました。それでも、別の女性をストーキングしていました」

守谷氏は、自身の歪んだ心理を告白する。ストーカー行為は、特定の相手への執着というよりも、衝動的に行ってしまう側面が強いという。

「特定の相手へのストーカー行為が阻止されたとしても、認知の歪みが改善されない限り、別のターゲットを見つけて、また同じことを繰り返してしまうんです」

治療と更生:加害者への支援の必要性

ストーカー行為を根絶するためには、加害者自身の治療と更生が不可欠だ。

「私の場合は、入院して条件反射制御法という治療を受けました。毎日20分間、時計を見ずに特定の行動を繰り返すことで、衝動や欲求を抑える訓練です」

守谷氏は、入院治療によってストーカー衝動をコントロールできるようになったという。しかし、精神医療に対する社会の理解は未だ不十分であり、治療に踏み切れない加害者も多いのが現状だ。

「ストーカーや依存症は、毎日の積み重ねです。薬物依存症と同じように、日々、ストーカー行為を繰り返さないように努力していく必要があるんです」

守谷氏は現在、ストーカー加害者の更生支援にも力を入れている。

「全国から、『治りたい』『助けてほしい』という声が寄せられます。入院が必要な場合は、病院への橋渡しを行い、入院中も定期的に面会するなど、寄り添いながらサポートしています」

社会全体で取り組むべき課題

ストーカー問題は、被害者、加害者だけの問題ではない。社会全体で、ストーカー行為の深刻さを認識し、対策を講じていく必要がある。

GPSの装着義務化など、被害者を守るための法整備を進めるべきです」

守谷氏は、自身の経験から、GPS装着の義務化を訴える。

「人権の問題もあるという意見もありますが、被害者の安全を最優先に考えるべきです。GPSがあれば、ストーカー行為を未然に防ぐことができる可能性が高まります」

また、ストーカー加害者への偏見をなくし、治療や更生を支援する体制を整えることも重要だ。

「ストーカー加害者は、決して『モンスター』ではありません。心の病を抱え、苦しんでいる人がほとんどです。彼らを社会から孤立させるのではなく、治療や更生を支援することで、ストーカー行為を減らしていくことができるはずです」

愛と執着の狭間で苦しむ人々を救うために。私たち一人ひとりが、ストーカー問題について真剣に考え、行動を起こしていく必要がある。